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世界で活躍した演出家の蜷川幸雄が亡くなった…


 世界で活躍した演出家の蜷川幸雄が亡くなったのは、昨年5月12日。今年4月、蜷川をよく知る演劇評論家の長谷部浩氏による評伝『権力と孤独』(岩波書店)が刊行された。

 この本のキーワードは「権力」。それまで蜷川が属していた小劇団が解散となったが、蜷川は一人商業演劇に挑戦する道を選んだ。その結果彼は、かつての仲間たちから裏切り者扱いされた。40年以上も昔の話だ。

 商業演劇を成功させ続ける中で、蜷川は強い権力が必要なことを学んだ。芝居を成功に導いてくれた俳優数十人をクビにしたこともあった。舞台初日、演出上のことで蜷川が舞台に上がって上演中の芝居を一時ストップさせた事件もあった。異例のことだ。

 文化勲章(2010年)は現代演劇の演出家として初の受章だったが、素直に栄誉を受けた。権力者となった蜷川には誰も反対意見は言えないので、代わりに蜷川自身が自分を批判しなければならなくなった。

 どんな天才も「自分の全てが分かる」はずはないが、それでも最後は、蜷川本人が自身を律するしかない。蜷川は、権力の上に反っくり返っている人間ではなかったようだ。

 権力者となってしまった自分への嫌悪感の結果、演出の場にいたたまれなくなることも多かった。それでも、その場で権力を行使するしかなかった。まさに「孤独」だ。長谷部氏が言うように、晩年の蜷川には「二重三重の屈折」があったのだろうと納得する。