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作家の日野啓三氏(2002年没)が「これから…


 作家の日野啓三氏(2002年没)が「これからは、世の中の多くのものが断片化するだろう」と語ったことがあった。当時は何のことか分からなかったが、今でははっきりと理解できる。

 文脈を離れ、断片的な情報が一人歩きすることが多くなった。政治家の発言などでも、一部の表現だけが情報として流れ、批判されることが多い。それが日野氏の言う「断片化」だ。

 知識は全体との関係の中に置かれているが、情報は断片にとどまる、と橘宗吾著『学術書の編集者』(慶應義塾大学出版会)は指摘している。知識は、その知識を含む全体像の中に位置付けられている。それに対して情報は、全体との関係の中で考察されることがない。

 知識には「作者→作品→読者」という流れが存在する、と橘氏は言う。しかし、情報には作者も読者もいない。情報の内容だけが問題なのだから、情報の作者への関心はもともと存在しない。

 情報は「接する」もので「読む」ものではない。だから読者もいない。そのように橘氏は述べる。文脈からも全体像からも解放された断片は、その分軽やかに世間に流通する。そして、短時間で忘れられる。忘れられたことさえも忘れられる。

 30年以上も前、日野氏はそんな時代を予見していた。そして今、現にそうなってしまった。物事を認識する仕組みが、短時間の間に思いがけないほど大きく変わってしまった。日野氏の見通しの確かさに驚く。