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今回の俳人協会評論賞は「未来図」同人の…


 今回の俳人協会評論賞は「未来図」同人の依田善朗さんによる『ゆっくりと波郷を読む』(文學の森)。石田波郷と作家横光利一との関係や、波郷の季語意識、韻律の問題など、先行研究のなかった分野を開いた評論。

 都内で開かれた受賞式の会場で、波郷の門人だった「門」主宰の鈴木節子さんに、波郷の人柄について聞いてみた。「その頃、家事と子育てに追われて、句会に出る機会もなかったの」と答えてくれた。

 「でも波郷は吟行などすべきではないと言っていました」と意外な返答。「俳句は生活そのもの」であって「作品のために旅行などすべきではない」という考えが波郷にはあったという。

 鈴木さんは家庭の出来事を題材とした。「われは妻桃のごとくにあらねども」とは自画像だ。波郷は人生で1度、生活そのものを否定される時期があった。昭和18年に召集令状が来て、戦場に駆り出されたからだ。

 戦後、振り返って波郷は「戦時生活」はあったが「真の生活はなかった」と回顧する。それでも韓半島で出合った光景を「露寒や罎をさげゆくたゞの人」と詠んだ。「たゞの人」とは戦争に苦しんでいる生活者のこと。

 依田さんは、「罎」からは「生活のにおい」が、「露寒」から「この生活者の心の寂しさ、不安が伝わってくる」と解説している。「今、俳句で詠まれている題材のほとんどは風景ですが、生活もまた大きなテーマなのです」と語る。