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「言葉や行為だけで人間の心が伝わるなら、…


 「言葉や行為だけで人間の心が伝わるなら、物語を作る必要はないんですね。あえて作ろうとするのは、宗教家なども同じだと思うんですが、心が通じあえるのが難しいからなんです」。

 先日亡くなった作家、津島佑子さんがインタビューで語ってくれた言葉だ。1979年8月、東京・豊島区駒込にある自宅で。小説集『氷原』を上梓したときで、物語は欠陥のある家庭で生きている女たちがテーマになっていた。

 「書き手の意識としては、主人公が足を浸している現実がある。その一方で胸を熱くしている思いがあり、その二つをふまえて書きたいと思っています」と続ける。人間たるゆえんをそこに捉えていた。

 父親が太宰治という著名な作家で、作家としての出発は慎重だった。「小説は父を殺したんだと思います」と語り、現代日本の作家たちに対してはいいイメージを抱いていなかったという。

 白百合女子大学で英文学を専攻。バイロン、シェリーに出会い、マーローなどエリザベス朝演劇を学んで、小説以外のところから文学を見る目を養った。一方、在学中から「文芸首都」に参加して小説の指導も受けた。

 母親が勧めた音楽は、好みがはっきりしていた。「モーツァルト以前のものが好きです」と言い、バッハなど「自我を考えずにいられた世界に憧れます。情緒はもう、ごめん」と。風貌は父親に似ていて、頬杖をつく仕草までそっくりだった。