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「薬喰」という言葉がある。薬とはシカ肉の…


 「薬喰」という言葉がある。薬とはシカ肉のことで、寒さの厳しい季節に食べれば血行をよくし、健康にもよいという意味で薬喰と称した。かつて獣肉を食べることを忌む風習があったので、婉曲な表現をした。

 「ぼたん鍋」も同様で、こちらはイノシシの鍋料理のこと。肉は薄く切り、ネギ、豆腐、シイタケなどと煮込み、味噌で味付けする。伊豆や丹波にはイノシシが多く、郷土料理として知られてきた。

 同じ食材を現代では「ジビエ」と呼ぶ。野生鳥獣の肉を意味するフランス語だ。食をテーマに調査・研究を行う「ぐるなび総研」は昨年12月、世相を反映する「今年の一皿」にジビエ料理を選んだ。

 関連サイトでメニューに載せる加盟店が前年から倍加し、コンビニでも食材に使われ、急速に広まったからだ(小紙1月4日付「広がるジビエ料理」)。名称がジビエに変わったように、料理法も西洋風が多いようだ。

 背景には野生鳥獣による農作物被害の深刻化がある。被害額は年200億円。シカとイノシシで6割を占め、環境省は両者の生息数を10年間で半減させる方針だ。自治体もジビエ料理の提供を推進している。

 猟師の数は減少しているが、新しいタイプの猟師も養成されつつある。「狩りガール」だ。カメラマンの田中康弘さんは著書『女猟師』で5人の女性を紹介している。中部から九州に及ぶが、それぞれ猟場は集落から近い。鳥獣の方でやって来るからだ。