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【上昇気流】歴史学者増田四郎の『ヨーロッパ中世の社会史』


講談社

 7月に講談社学術文庫の一冊に入った、歴史学者増田四郎の『ヨーロッパ中世の社会史』を興味深く読んだ。気流子の学生時代、西洋経済史のゼミを担当した教授が増田の愛(まな)弟子で、その師から増田についての話を聞いた縁がある。

 師は同僚と二人で、アンリ・ピレンヌの名著『ヨーロッパ世界の誕生』を翻訳出版したが、その原著を読んだのは師の学生時代。終戦後間もなくの頃だそうで、そのゼミの指導教官が増田だった。

 増田は1940年に入手し、戦時中の疎開先でむさぼるように読み、異常な感激と興奮を覚えたという。そして戦後、ゼミのテキストとして使うことにした。だが、それを入手することができない。

 そこで学生たちが全文ガリ版として作り、輪読し、議論し合ったという。そのゼミから多くの学者が輩出することになる。増田には『西欧市民意識の形成』や『西洋封建社会成立期の研究』など、たくさんの著書がある。

 専門書でありながら読みやすい文章で書かれ、自分の学問研究を時々「しろうとの歴史」と語ることがあった。紛れもない碩学(せきがく)からこうした言葉を聞くと、聞いた方も驚きを感じざるを得ない。

 理由は問い掛けそのものにあり、歴史学では解けない問題に取り組み続けてきたからだ。ヨーロッパは何を成し遂げたのかという問題だ。その結論の一つに、民衆の中にデモクラシーの精神を育てたことを挙げる。この結論は増田最後の研究成果だ。