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米国の歴史を思想史として描いた試みは多く…


 米国の歴史を思想史として描いた試みは多くない。米国史を動かしてきた強力な観念はさまざまあったが、人種も、文化も、出自も多元的な社会にあっては、どれも不完全な実験のまま。

 思想史の困難さをこう説明するのは『アメリカを作った思想』(ちくま学芸文庫)の著者でウィスコンシン大学教授のジェニファー・ラトナー=ローゼンハーゲンさん。題材の選択に苦悶(くもん)したそうだ。

 その歴史は移住者や亡命者によるテキストであふれているために、国際横断の産物だという。この著作の中に一人の日本人が登場し、及ぼした影響の大きさについて語る。禅仏教を広めた鈴木大拙だ。

 1893年、シカゴ万博に際して万国宗教会議が開催されると、日本から釈宗演が参加して論文を発表。原稿を英訳したのが大拙だった。講演を聴いた出版者のポール・ケーラスが大拙を米国に呼び寄せた。

 大拙は11年間、仏典の研究翻訳に従事し、帰国したが、40年後の1949年に再度渡米。ローゼンハーゲンさんは「大拙は、西洋においては他の追随を許さない禅の大使として戻ってきた」と影響力の大きさを語る。

 一方、日本に対しては戦後『霊性的日本の建設』を書いて再建を促した。冒頭を飾るのが「戦争礼讃Laus belli(魔王の宣言)」。仏典では貪瞋痴(とんじんち)について語るが、その原因者、魔王について手口と働きを描き出した。大拙のこのメッセージは、もう一度顧みられていい。