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昨年急逝した評論家の坪内祐三さんの代表作…


 昨年急逝した評論家の坪内祐三さんの代表作の一つ『一九七二』が、文春学藝ライブラリーで文庫化された。1964年東京五輪以後の高度経済成長期の大きな社会変化が完了するのが72年と見て、その時代を論じたものだ。

 週刊誌の記事を読み返し、政治・社会からサブカルチャーまで硬軟取り混ぜて社会風潮を振り返っている。「なぜ72年なのか」の根拠については「単なる私の直観」と言うが、この直観がなかなか鋭い。

 例えば、この本でもかなりの部分をあてている連合赤軍事件に絡んで、2000年に国内で逮捕された日本赤軍の活動家、重信房子受刑者が移送される時。手錠をはめられた両手を挙げて「頑張るからね」と言ったことに対して感じた「違和感」などがそれだ。

 この本を読んで、大阪万博や三島事件のあった1970年から72年までの3年間が時代の大きな変わり目だったと改めて感じる。

 ちょうど今から50年前の71年の出来事を振り返っても、マクドナルド1号店が東京・銀座に開店、日清食品のカップヌードル発売などがある。これらは今に続く変化である。

 本書の冒頭、著者は東京五輪から大阪万博に至る高度成長期のわずか7年間の時代変化の勢い、「新しい物と古い物との、そのせめぎ合いの激しさ」に言及している。現在は再び東京五輪の開催を前にしているが、ポストコロナと重なる五輪以降、再び大きな変化が押し寄せることをこの本は暗示している。