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豊臣秀吉の参謀として知られる黒田官兵衛の…


 豊臣秀吉の参謀として知られる黒田官兵衛のエピソード。当初彼は、茶道に関心がなかった。武将が刀も持たずに狭い茶室に入るのは不用心と考えていたためだった。

 ある日、秀吉に茶室に招待された。断るわけにはいかないので、いやいや茶室に入ったところ、秀吉は合戦の密談をした。秀吉は「密談をすれば他人は疑うが、茶室なら疑いを招くことはない」と言った。官兵衛はその言葉に大いに感服して、以後茶の湯を好んだという話だ。

 以上は岡谷繁実(おかのやしげざね)著『名将言行(げんこう)録』(明治2年)の記述だ。面白い話だが、出来過ぎているとも言える。「実際にあった話なんだろうか?」とも思えてくる。

 半面、刀なしで狭い茶室に入るのをよしとしない官兵衛の合理主義は納得できる。用心深さが求められる時代でもあった。秀吉の一言で全てを了解して、以後茶の道に励んだというのも官兵衛らしい。

 『名将言行録』は「面白い話がある」というふうに、昔の書物に記述された興味深いエピソードを集めたもので、細かい史実をあれこれ詮索しようとの意図はほとんどない著作だ。

 ただ、密談についての考え方を10歳年少の官兵衛に語る姿は、秀吉の面影を伝えている。史実は大事には違いないが、史実を超えたものもこの世にはたくさんあって、それはそれで存在する価値があることも確かだ。秀吉と官兵衛の間のエピソードにも、われわれが生きていく上で参考にすべき点がたくさん含まれていそうだ。