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年末は寄席も賑(にぎ)わう季節である。…


 年末は寄席も賑(にぎ)わう季節である。大晦日(みそか)が近づくと、人情噺「芝浜」が聞きたくなる落語ファンは多い。ほんとにいやな新型コロナウイルス禍だが、寄席に行けばそれも笑い飛ばしてくれるのではと期待して、東京・新宿末廣亭に足を運んだ。

 新型コロナ感染拡大以来2度目になるが、さすがに客は少ない。ある噺家は、まばらな客席を見て「新宿でここが一番安全」と少し自虐を込めて語った。

 しかし客が少なくても、手を抜かないで精一杯(いっぱい)演じるのはやはりプロだ。噺家たちも、こんな時節に寄席に来るのだから、きょうの客はよっぽど落語が好きで、うるさ型も多いのではないかと思うのかもしれない。

 あるミニ・コンサートに行った時も、演奏者があいさつで「こういう時節によく来てくれました」と、ちょっと感極まり言葉を詰まらせる場面があった。コロナ禍で音楽家たちの置かれた厳しい現状が背景にあるのかもしれないが、それ以上に以心伝心で感じるものがあったのだろう。

 末廣亭の周辺はレストランや居酒屋が多い。それなりに客が入ってはいるようだったが、通常の年末の賑わいの比ではない。客筋は若い人が圧倒的に多い。

 新宿通りに出てもいつもと違った寂しさを感じ、毎年繰り返されてきた年末風景には、慌ただしさの中にも何か人の心を温かくするものがあったと気づく。失って知る日常の掛け替えなさである。いずれにしても、こういう年末は今年だけにしたい。