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街を歩くと黄に色づいたイチョウの木をよく…


 街を歩くと黄に色づいたイチョウの木をよく見掛ける。東京・武蔵野市にある杵築(きづき)大社に参拝した際、珍しい「千本イチョウ」を目にした。この大社は山岳信仰の「富士講」で知られ、ミニ富士山もある。

 静かな境内にはイチョウの葉が散り敷き、夥(おびただ)しい数の実が落ちていた。誰も拾う人はいない。不可思議なのは幹の形状だ。巨木なのだが、1本ではなく多くの幹で構成されている。

 市指定の天然記念物で、主幹5本、支幹四十数本から成り、根本の周囲4・2㍍、目通り幹回り2・5㍍。枝張り17㍍四方。150年以上前に落雷など何かの原因で地上部分が枯死し、その後に根際から支幹が生じてこの形状になったという。

 驚くべき生命力である。樹木の中で地中にある根が一番長生きする部分で、一番大切な部分。ドイツの森林管理官ペーター・ヴォールレーベンさんの『樹木たちの知られざる生活』(早川書房)によると、ここに“脳”がある。

 毒性物質や石や水に触れた場合、根は状況を判断して成長組織に変化の指示を与える。それを受けて成長組織は危険な場所に進まないように遠回りする。ペーターさんはこれを知性や記憶、感情の蓄積と見なす。

 洋画家の大畑稔浩(としひろ)さんは、千葉市のホキ美術館で開催中のベストコレクション展に、イチョウを描いた《気配―鎮魂》を出品。荘厳な姿に新型コロナウイルスで亡くなった人たちへの鎮魂と明るい未来への祈りを込めている。