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暑気払いを兼ね、新型コロナウイルスの…


 暑気払いを兼ね、新型コロナウイルスの感染拡大以来、遠のいていた寄席に足を運んだ。東京・新宿末廣亭の夜の部で、昭和の名人で芝居噺(ばなし)や怪談噺を得意とした林家彦六の最後の弟子、林家正雀師匠が取りを務める。

 末廣亭のホームページを見ると、3密を避けるために入場は160人に制限しているという。平日ということもあり、客席は十分余裕があった。ある演者はやや自嘲気味に「ナチュラルディスタンス」などと洒落(しゃれ)のめしていたが。

 正雀さんの噺は「真景累ケ淵(しんけいかさねがふち)」。「怪談牡丹灯籠」と並ぶ三遊亭圓朝の怪談噺の代表作だ。この噺を正雀さんは、ドキュメンタリー風と言ってもいい乾いたタッチで演じていく。怪談噺だけに陰惨な場面の描写もある。

 彦六はじめ怪談噺の最後は「さても恐ろしき執念かな」という言葉で終わらせていたという。怪談噺は人情噺の後のしみじみとした温かい気分、滑稽噺の後の笑いの爽快さはもちろん望めず、どうしても後味の悪さが残る。

 しかし、そこは演者も心得ている。「怪談の後は踊るんだよ」と彦六は言っていたそうだが、正雀さんは噺が終わった後、ねじり鉢巻きにたすき掛け、尻端折(しりはしょ)りをして、かっぽれを踊ってくれた。すると不思議なもので、暗く陰惨な噺の後味は消えた。

 寄席はあくまで明るく笑う所という建前があるのは当然として、客の心理もよく考えている。気分良く帰ってもらえば、また来てくれる。何事も後味が重要だ。