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名曲「春の海」で知られる作曲家・箏(こと)…


 名曲「春の海」で知られる作曲家・箏(こと)演奏家の宮城道雄は、味わい深い随筆も残している。『新編 春の海 宮城道雄随筆集』(千葉潤之介編、岩波文庫)には、音に関わる名編がいくつも載っている。盲目であるが故に、眼(め)の見える人の及ばない、豊かな音への感受性が息づいている。

 「玉川の音」にこんなくだりがある。「春になると外を通る人の足音でも、冬とは違ってどことなくのどかな響きに思われる。ことに戸を明け放したりしていると、それがごく近くに聞えて来る」。そのほか「遠くで走っている省線電車の音」「長閑(のどか)な日に飛んでいる蠅の羽音」など、興趣豊かに綴(つづ)っている。

 在宅勤務中の気流子も、宮城先生に倣って、朝、外の音に耳を澄ませていると、意外と鳥の声なども聞こえてくる。最近少なくなったと言われる雀(すずめ)の鳴き声らしいのも聞こえて、嬉(うれ)しくなった。

 そこまでは良かったのだが、9時を過ぎて、マンションの階下から「ギュイーン」という電動工具で何かを削る、実に神経に障る音が聞こえてきた。リフォームの工事の音であった。

 実はこの工事、3月いっぱいで終了するはずだったのだが、新型コロナウイルス拡大で中国からの資材が届かず、延長されたのである。笑えない現実である。

 仕方なく、近所の緑地のベンチでひと時を過ごすことにした。何種類もの鳥の鳴き声や、若い女性ジョガーのスニーカーの音も聞こえた。一番多かったのは表通りの車の騒音だった。