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哲学者は不思議な人種だ。例えば「うまく…


 哲学者は不思議な人種だ。例えば「うまく言えないという感じがいつもある。同時に、うまく言えないようなことしか言いたくない」(『戦後思想の到達点』NHK出版/昨年11月刊)と語るのは柄谷(からたに)行人(こうじん)さんだ。

 「うまく言えない」は、単なる口下手とは違う。小学校2年ごろまで学校ではものを言わなかったと本人が回想している。大人になってから、選択的緘黙(かんもく)症と診断された。家族以外とは話せないのが特徴だ。

 世間が求めるのは「うまく言える人間」だ。「コミュニケーション能力が必要」という言葉は、世間にとって自明のことだ。

 だが、哲学は「本質」を語るものだ。「うまく言う」と「本質を語る」とは全く違う。うまく言えば、本質から外れる。本質を語れば、世間は敬遠する。だから哲学者としては「うまく言えないようなことしか言いたくない」となる。

 柄谷さんは、大学も大学院も哲学専攻であったことがない。それでも、哲学者(独自の哲学表現をする人)なのであって、哲学学者(大学で哲学を教える人)ではない。そもそもは文芸評論家であったが、ある時期から哲学へと方向を変えた。

 柄谷さんが独自に展開してきたのは「交換様式論」と呼ばれる分野だ。人間社会は古今東西、「交換(商業)」が本質という考え方だ。マルクスが「生産(農業・工業)」を重視したのとは全く違っている。だがそれが、この本の表題通り「戦後思想の到達点」であることは確かだ。