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スイスのチューリヒ在住のジャーナリスト、…


 スイスのチューリヒ在住のジャーナリスト、サーシャ・バッチャーニさんが家族史について書いた『月下の犯罪』は2016年に出されると、ヨーロッパでベストセラーになった。

 原書はドイツ語で、英語、仏語をはじめ5カ国語に訳され、昨年8月には講談社から日本語訳も出版された。日本人も無関心でいられないのは、著者がロシアの歴史認識の問題について報告しているからだ。

 小欄(1月9日付)でも触れたが、著者はハンガリー貴族の末裔(まつえい)。祖父がシベリアの収容所で捕虜として10年も過ごしたことから、著者とその父親が祖父の足跡を訪ねて現代のロシアに調査に行く。

 祖父の記録は軍の資料館に保管されていた。また、モスクワにある収容所博物館にも赴いた。だが、そこは標識もなく、近隣の人にも知られていない小さな建物の中にあったという。

 地図や捕虜の写真、板ベッドなどが展示され、生活の様子が想像できるようにしてあったが、「あまりにも綺麗で、人形の家のようだった」。数々の収容体験者の記録とは懸け離れていて驚く。

 別の日、その犠牲者の名前と生涯を公表すべく共産党独裁体制について調べているという組織の責任者に会う。だが、彼の返答は「ロシア人はスターリンについて何も知らないし、学校でも子供たちには何も教えないのです」。スターリンは勝利者で、暗い面を圧倒している。ヒトラーに劣らないという罪は認識されていないのだ。