世界日報 Web版

「除夜の鐘吾身の奈落より聞ゆ」(山口誓子)…


 「除夜の鐘吾身の奈落より聞ゆ」(山口誓子)。もう年末である。仕事納めをして帰省の準備をしている人、のんびりと過ごしている人、大みそかまで仕事がある人などさまざまだろう。

 今年一年を振り返ると、まさに「光陰矢の如(ごと)し」で、時の速さを感じるばかり。皇太子殿下が新天皇に即位され、元号が平成から令和に改まるなどのニュースがあったが、よほどの事件や行事でない限り、すぐに思い出せる事柄はないのが普通ではないか。ただ、無事に過ごしてこられたことを感謝するばかりである。

 一年を締めくくるのは、大みそかの夜に全国の各寺院で鳴らされる「除夜の鐘」。かつて地方に住んでいた時には、山の方から空を超えて鐘の音がゴーンゴーンと聞こえてきたことを思い出す。仏教における百八つの煩悩を消すための長年の伝統行事だ。

 ところが、鐘の音がうるさいというクレームを受けて除夜の鐘を中止する寺院が現れたという。ある音が騒音であるかどうかは、感覚や印象の違いで人それぞれ変わってくる。

 虫の声や風鈴をうるさいと感じる人もいるのだから、このようなクレームをつける人がいることは仕方がない。こうした少数意見を重んじることも大切である。だが、それをもって伝統行事を中止するのはどうだろうか。

 中には、夜ではなく、昼間に除夜の鐘を鳴らすところもあるという。これがいいかどうか分からないが、全くもって世知辛い時代になったものである。