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毎週のように書評を書いてきたこの一年。…


 毎週のように書評を書いてきたこの一年。楽しい本、取材の労を感じさせた本、視野を広げてくれた本、いろいろあったが、最も衝撃の大きかった一冊は『ヴェノナ』(ジョン・アール・ヘインズ&ハーヴェイ・クレア著、扶桑社)だ。

 歴史学者の書いた学術書で、翻訳には英語とロシア語が必要で、監訳者の中西輝政さんには覚悟と決意を要した仕事。読めば人間関係の詳細な記述が多く、資料を読まされる味気無さ。

 だが、この地道な作業から浮かび上がってくる事実が途方もなく凄(すご)い。20世紀の歴史を根本から書き直すことを要請している。ヴェノナは作戦名で、1943年から始められたソ連暗号の傍受・解読作業。

 ヴェノナ文書は95年、米政府によって公表され、ソ連による米国での諜報(ちょうほう)活動が明らかにされたことで世界中に衝撃をもたらした。欧米では研究書が出され、同書は情報史の教科書にも指定された。が、日本での紹介はこれが初めて。

 同書が明らかにしたのは、ルーズベルト政権中枢に対するソ連の諜報活動が深く浸透し、内部から米国を動かす活動があったこと。

 日米開戦のきっかけ「ハル・ノート」の最初の起草者も、ヤルタ会談で重要な役割を果たした政府高官アルジャー・ヒスも、ソ連のスパイだったこと。共産主義の浸透はマッカーシーが考えていた以上に深刻で、文化人、知識人、言論人が秘密工作に極めて弱かったこと。50年を経て明かされた歴史の真実だ。