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ロヒンギャ迫害非難


棄権してはリードできない

山田 寛

 先週、国連人権理事会は、ミャンマーのロヒンギャ族迫害を非難する決議を採択した。

 先月、国連総会の委員会も同様の決議を採択している。

 日本はどちらも棄権した。委員会では、欧米など135カ国が賛成した中での棄権だった(中国などは反対)。

 人権理決議採択前、東京でヒューマンライツ・ナウなど国際人権・救援3団体とミャンマー民主化支援議員連盟主催の「ロヒンギャ人権危機と日本外交を考える」集会があった。左派が主体だから、委員会での棄権について、日本政府を激しく批判する集会となった。在日ロヒンギャ代表も批判の熱弁を振るった。

 バングラデシュに脱出したロヒンギャ難民は、8月の危機発生以来62万人。国際救援組織によれば、今後数週間にさらに20万人も増加しそうだ。ミャンマーの居住地域はもう空に近い。

 私も棄権はNGだ。ただし、問題が難しいことは認識しなければならない。

 壁は二つ。一つはもちろん迫害の主体、ミャンマー国軍である。アウン・サン・スー・チー国家顧問の統制外の「国の中の国」だ。過激派退治というが、ロヒンギャ民衆に最大の恐怖を与え、追い出すのが目的と思われる作戦を遂行してきた。

 赤ん坊を飲料用水に投げ込んで虐殺し、水を利用不能にする“一石二鳥”蛮行など、暴虐情報がいっぱいだ。特に目立つのは集団レイプで、国連の女性問題担当機関事務局長や事務総長特別代表らが、「軍命令による、新型で最悪の女性への暴行と拷問」と非難している。

 ミャンマー国軍と警察は長年、残酷で怖(おそ)れられてきた。ところが、そんな国軍とフライン軍司令官の人気が今、反ロヒンギャの一般国民の間で、数十年来最高のレベルに上昇しているとか。国軍はむしろ自信を強め、軍司令官は次の大統領選出馬を狙っているという。

 さらに大きな壁は中国だ。スー・チーさんは今月1日、北京で習近平・国家主席と会談した。中国の「一帯一路」構想の一環、「中国-ミャンマー経済回廊」の具体化など、一層の関係強化で合意し、対中関係が特別で重要な意義を持つと言明した。

 中国は政権を支援し、うるさい欧米の非難から護(まも)ってくれる。ロヒンギャ問題で、ミャンマーは一段と中国に傾斜しつつある。

 日本の棄権は、ミャンマーの対日関係悪化と対中傾斜を抑えたいからだろう。

 日本は数十年来、しばしば問題国家に、欧米の北風と違い、太陽まで行かずとも南風の対応をしてきた。南アフリカ白人政権の人種隔離政策への制裁に加わらず、「名誉白人」の称号を得た。天安門事件(89年)後の対中国制裁を早々と解除し、政府開発援助(ODA)大量投入で、中国が覇権主義的経済超大国になる道を開いた。かつての対北朝鮮援助、フン・セン・カンボジア政権支援、スー・チーさんを軟禁したミャンマー軍事政権へのODA、最近の対ロシア関係…。

 だが南風戦略で、相手のオーバー脱がせや、日本の国益増進に大成功しただろうか。今回も、あくまで人道に背く犯罪的行為は断固非難し、その上で柔軟で巧妙な外交を試みるべきではないか。とりわけ女性への人権侵害が大問題になっているのだから、と思う。

 安倍首相の戦後70年談話が「女性の人権を守るため、日本が世界をリードする」と宣言したことは、以前も書いたが今回も強調したい。棄権してはリードできない。

 国連の人権機関の場では近年、慰安婦問題などで日本が誇大批判されてきた。それだけに、人権と人道を最大限重視する日本の立場をきちんと示すべきだと思うのである。

(元嘉悦大学教授)