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金正恩氏の「不自由な体」の意味


 ラヂオプレス(RP)によると、北朝鮮の朝鮮中央テレビは25日夜、「不自由な体なのに人民のための指導の道を炎のように歩み続けるわが元帥」と報じて、金正恩第1書記が足を引きずって現地指導する7月の映像を流した。

 上記のニュースを聞いて多くの北朝鮮ウォチャーも戸惑ったことだろう。なぜって、北側が「首領様は不自由な体だ」と述べ、足を引きずる指導者の姿の映像を流したからだ。北朝鮮を含む独裁政権、共産政権では指導者の健康問題は超トップ級の国家機密だ。敵国が「あいつはもう少ししたら死ぬ」と分かれば、どのような冒険を仕掛けるかもしれない。そればかりか、国内には潜在的政敵がいる。彼らは指導者がいつ死去するかと注視しているからだ。

 金第1書記の祖父、故金日成主席が心臓病だという情報が流れた時、当方は同主席の心臓病説の真偽を確認するためスイス・ジュネーブに飛び、取材した。心臓外科専門医から「リヨン大学付属病院の心臓外科医が平壌に飛んだ」という情報を掴んだ。もちろん、このニュースは翌日の朝刊1面を飾ったことはいうまでもない。フランス通信(AFP)は「わが国の医者が北の独裁者の手術をした」というタイトルの記事を世界に発信したほどだ。

 ところが、金日成主席の孫、金正恩氏の時代に入ると、「自分は不自由な体だが、国のために働いている」と国民にアピールするために国営テレビで足を引きずる自分の惨めな姿の映像を流させたというのだ。世代の相違とか、指導者の性格の違いという問題ではない。

 60代後半、70代の指導者だったら理解できるが、30代に入ったばかりの若い指導者が「不自由な体」といっても誰も同情しないことを金正恩氏は分かっていないのだろうか。もしそうだとすれば、同氏の知性と感性を疑わざるを得なくなる。

 なぜ、北国営テレビは首領様が不自由な体だと映像付きで報じたのだろうか。考えられる最もシンプルな理由は、その「不自由な体」は西側メディアが憶測するように高尿酸血症、高脂血症、肥満、糖尿、高血圧を伴う痛風といった深刻なものではなく、事務所の階段から転げ落ちて足をくじいた、といった類に過ぎないからだ。だから、くじいた足を引きずりながら国務に励む指導者、というイメージ作りのために映像で登場したのに過ぎない。

 次に「不自由な体」は肥満による深刻な病の結果だとする。それでは深刻な病の指導者の映像をどうして流したかだ。考えられるのは、国営テレビ関係者の落ち度だ(関係者は即処刑されるだろう)。もう一つは、金正恩氏がもはや首領様ではないからだ。誰かが同氏の失脚を演じさせているのだ。金第1書記は25日の最高人民会議にも欠席している。

 後者のシナリオをもう少し考えてみよう。金正恩氏は叔父張成沢氏の怨念に悩まされているのだ。精神分析学的にいえば、金正恩氏が叔父射殺のトラウマに悩まされている。だから、正しい判断力を失っている可能性があるのだ。怨念といえば、笑われるかもしれないが、死者はいつも我々を安らかな想いで見守っているのではないのだ。

 指導力と正常な判断力を失った金正恩氏を陰で操る人物がいるのかもしれない。すなわち、北では既にポスト・金正恩時代が始まっているというのだ。少々、過激なシナリオだが、それを打ち消すような事実が明らかになるまでは完全には排除できない。

(ウィーン在住)