トップコラム苦悩のミケランジェロ【東風西風】

苦悩のミケランジェロ【東風西風】

 ルネサンスの三大巨匠の一人、ミケランジェロは、「天才」という一言では語れないほど苦悩に満ちた人生を送った。

ミケランジェロのモーゼ
ミケランジェロのモーゼ

 ロマン・ロランの『ミケランジェロの生涯』を読むと、病や不安、孤独、厭世(えんせい)思想に苛(さいな)まれながらも、ひたすら仕事に打ち込む人間像が浮かび上がる。彼は「すべてが私を悲しませる・・・幸福さえも、あまりに短いものであるゆえ、不幸以上に私の魂を惑わせ苦しめる」と書いた。本人の手紙には、自らを「憂鬱(ゆううつ)で気が狂っている」と記したものもある。食事も睡眠も削って仕事をし、法王や周囲の人々との軋轢(あつれき)にも苦しんだ。そうした精神的苦痛の中で、システィーナ礼拝堂の壮大な天井画を完成させた。

 彼は詩人でもあった。愛しい人へのかなわぬ思いや、優しさと苦しみを詩に託した。「歓(よろこ)び」と「悲しみ」は姉妹であり、ともに聖なるものだと記した。晩年には若い貴族トンマーゾ・デ・カヴァリエーリや女性詩人ヴィットリア・コロンナと精神的な交流を深めた。彼にとって芸術とは、神の完全さに近づくための営みでもあった。

 神とキリストへの深い信仰。それも彼の苦悩を消し去ることはできなかった。それでも彼は石を刻み、絵を描き、詩を書いた。

 ミケランジェロが88年の生涯で残したものは、人類史に残る傑作の数々だけではない。苦しみながらも創造し続ける、人間の偉大さそのものも、彼が残した遺産だったのかもしれない。(風)

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