トップコラムデパートと家族の思い出【上昇気流】

デパートと家族の思い出【上昇気流】

 東京の西武渋谷店が閉店し58年の歴史に幕を下ろした。1980年代をピークに若者文化の発信地となり、ファッションの街渋谷の拠点となった

多くの客でにぎわう閉店日の西武渋谷店=30日午後、東京都渋谷区
多くの客でにぎわう閉店日の西武渋谷店=30日午後、東京都渋谷区

 買い物をしたことはそう多くないが、かつて世界日報社が近くにあったので、その前をよく通った。82年にコピーライターの糸井重里さんが作った「おいしい生活」のキャッチコピーが書かれたポスターをそのたびに目にした。人々に経済的余裕があったあの頃の気分をうまく先取りしたコピーだった

 このニュースに絡めてNHKの朝の番組が視聴者から百貨店の思い出を募集していた。結構多かったのが、上階にあるレストランでの家族との会食の記憶だった。ある年齢以上の人には「お子様ランチ」を食べた楽しい思い出を持つ人が多いだろう

 作家の安岡章太郎が『僕の東京地図』という随筆の中で、東京・日本橋近くの病院で友人を見舞った後、ふと三越に入ってチョコレートとお茶を買ったことを書いている

 「子供の頃、母親につれられてデパートに入った心持を憶い出し」て「ふっと母親に甘えたいような気分」になったのだ。「われわれ大正一桁世代の者を、そういう気分に誘うのは、やはりデパートだろう」と書いている

 今の子供たちに家族と初めて外食したのはどこかと聞いたら、ファミリーレストランと答えるのが多いだろう。それは大切な楽しい思い出として残るに違いない。昭和世代がデパートで感じた高級感や特別なわくわく感は味わえないとしても。

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