「重要な課題について私の主張がもはや市民の心に届かなくなった」。
ドイツ・ベルリン市のカイ・ヴェーグナー市長が、9月20日の市議会選挙を前に与党・キリスト教民主同盟(CDU)の筆頭候補としての出馬を見送ると表明した際の言葉である。就任からわずか3年余り、54歳と若い市長が再選を断念した背景には、政治家の「公的信頼」を重視するドイツ社会の厳しい視線がある。

今年1月、ベルリン南西部で4万5000世帯が停電に見舞われ、市は非常事態を宣言した。しかし復旧は遅れ、多くの家庭で暖房が使えなくなった。その最中、市長が女性と1時間以上テニスをしていたことが判明した。当初「自宅オフィスで仕事をしていた」と説明したが虚偽だったことが明らかになり、市長は「もはや誰も私の言葉を信じなくなった」と述べた。
ドイツでは、公的場面での不適切行動が政治生命に直結する例が少なくない。2021年の洪水被害地視察で談笑する姿を撮られたアルミン・ラシェットCDU党首は、次期首相候補の最有力とされながら立候補を断念した。危機対応の姿勢や説明の誠実さが、政治家の資質として厳しく問われる。
一方、日本では、政治家の私的領域の問題が致命傷となるケースは多くない。国民民主党の玉木雄一郎代表は不倫報道を認めたが、一定の謹慎期間を経て党首として活動を続けている。岩屋毅元外相の議員宿舎に中国人女性が侵入した問題も、説明が十分でないまま幕が閉じた。公的信頼の毀損が政治生命に直結するドイツとは対照的だ。
文化や政治風土の違いはあるものの、ベルリン市長の「市民の心に届かなくなった」との言葉は、政治家の信頼性を重視するドイツ社会の特徴を象徴している。ドイツでは、政治家が公的信頼を損なった場合、辞任は責任の取り方として広く受け入れられている。ヴェーグナー氏の判断も、その政治文化の延長線上にあると言える。







