「今はもう秋」で始まる『誰もいない海』(山口洋子作詞・内藤法美作曲)は1970年、トワ・エ・モワが歌ってヒットした。夏から秋に移るちょうど今ごろの海を訪ねて失恋の傷を癒やし、前を向いて生きようと誓う歌だ
洋の東西を問わず失恋の歌は多いが、夏の終わりの寂しい海辺の情景と失恋の悲しさを重ねたところが、いかにも日本的だ。美術史家の高階(たかしな)秀(しゅう)爾(じ)は「実体の美と状況の美」という論考の中で「日本人は、遠い昔から、何が美であるかということよりも、むしろどのような場合に美が生まれるかということにその感性を働かせて来た」と述べている
そして「美とは万古不易のものではなく、うつろいやすいもの、はかないものという感覚を育てて来た」という。その分かりやすい例として高階は、江戸時代の歌川広重らの名所絵が単に場所ではなく、季節ごとの自然と一つになった情景を描き出していることを挙げている
そんな日本人は季節の微妙な変化にも鋭敏で、そこに情趣を見いだしてきた。しかし近年の地球規模の気候変動の影響で、季節のなだらかな変化が失われつつある
夏から秋にかけては、秋雨前線が停滞し、それに伴って本格的な秋に移行していく。秋雨は「しとしと」と形容されることが多いが、最近は豪雨被害をもたらす線状降水帯の発生を常に警戒しなければならなくなった
このまま温暖化が進めば、微妙な季節の変化を表現する言葉や、それを歌った詩歌も歴史的遺物になってしまいかねない。







