ベトナムのメコン川下流域を旅すると、数多くの養殖いかだを目にする。育てているのはナマズだ。
わが国でもうなぎ屋ほどではないものの、ナマズ専門店が存在する。ナマズは川魚特有の泥臭いイメージとは違って、白身魚で臭いもしない。ただベトナムのメコン養殖ナマズを食べているのはベトナム人ではなく、米国人だ。このナマズの多くは、冷凍されて米国マクドナルドに輸出され、フィッシュバーガーとして加工される。
そのベトナム産養殖川魚の輸出品が一つ増えようとしている。日本向けティラピアがそれだ。日本で消費されるのは寿司(すし)や刺身用加工品だ。今年上半期に日本に輸出されたティラピアは140万ドルで、前年同期比で54%増加した。ナマズに比べればまだまだ小規模だが、これから大きく飛躍する伸びしろを持つ。
ティラピアの魚肉はナマズ同様、臭みもなく美味で「淡水のタイ」ともされる。わが国でもイズミダイとの流通名を持つ。

タイ国ではプラーニン(黒い魚)と呼ばれ、大抵の市場には存在する大衆魚だ。このプラーニンをタイの食料難を救う手立てとして半世紀前、プミポン前国王に養殖を勧めたのは上皇陛下だった。
なおティラピアはガリラヤ湖に多く生息しており、イエスの弟子ペテロが銀貨をくわえたティラピアを釣り上げた逸話からセント・ピーターズ・フィッシュとも呼ばれる。
約2000年を経てティラピアは、金貨をくわえてベトナムの経済成長を支える一翼を担おうとしている。(T)
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