柳田国男著『遠野物語』(明治43年)の冒頭近い部分に、毒キノコによって一家が没落する話が記述されている。梨の木の周囲に、見慣れぬキノコがたくさん生えていたのを主人が見つけた
下男らもキノコを食べていいものかどうか議論していた。主人は「食べない方がいい」と言ったが、下男の一人が、「オガラ(麻の皮をはいだ後の茎)でよくかき回した上で食べれば中毒にはならない」と言ったので、一同はこの言葉に従った
たまたま主人の7歳の女の子だけが外に遊びに出ていたが、昼飯のことも忘れていたので助かった。豊かな一家がほぼ全滅した。それを知った親類の人々が、「金を貸していた」などと称して、家財を味(み)噌(そ)の類いまで持ち去った。村の草分けだった一家は跡形もなくなった
研究によれば、このキノコは猛毒の「コレラタケ」だった。よく似たキノコが多いため、慣れた人でも間違えることが多いという
下男に押し切られた主人は、学者風の変人だったと言われる。京都から和漢の書物を取り寄せて読みふけっていたという。学問はいいが、本業をおろそかにするのはいけないという教訓も含まれていよう
柳田は「家の盛衰」という言い方でこの事件を記述している。『遠野物語』のケースに限らず、どんな時代であれ、家の盛衰はなくならない。研究書によれば、助かった7歳の女の子は、大人になってから子供はできなかったものの、養子をもらって家系は継がれたという。(昭和時代初期の話)







