トップコラム安倍晋三回顧展に思う、「保守分断」狙った銃弾【潮汐閑談】

安倍晋三回顧展に思う、「保守分断」狙った銃弾【潮汐閑談】

強固な遺志継承へ与党は結束を

 「安倍晋三回顧展」に足を運んだ。会場の東京ビッグサイトでは入場口で持ち物検査が待っていた。ペットボトルも開けるよう促され一口飲んだのを確認してようやく入れたが、あの銃撃暗殺が及ぼした緊張感を改めて想起させられた。4年前の「事件」の意味するものは何だったのか、単なる回顧でなく安倍元首相の遺志をいかに継承して実現するかが今こそ問われているのではないか。

回顧展では安倍晋三元首相へのメッセージを書きつづるコーナーも=4日午前、東京・有明(石井孝秀撮影)
回顧展では安倍晋三元首相へのメッセージを書きつづるコーナーも=4日午前、東京・有明(石井孝秀撮影)

 事件の犯人とされた山上徹也被告が、母親の世界平和統一家庭連合(旧統一教会)への多額の献金で家庭が破壊されたとして恨み、安倍氏を教団と関係が深いとみて標的にしたという。銃撃事件の山上単独犯説などさまざまな疑問や不審な点の検証は公にされず、一気に一教団の組織やあり方にだけ「世論」の関心や追及が集中してしまった感がある。

 ある有力な保守言論人が筆者に事件後こう喝破したことがある。「攻撃は教団に対してだけではない。いやそれ以上に『安倍政治』という保守政治の理念と思想の抹殺を狙ったものだ」と。安倍氏と教団の関係を既存(オールド)メディアが中心になって執拗にキャンペーン化するなど安倍氏を貶(おとし)める〝世論操作〟が目に余った。

リベラル化を懸念

 安倍氏は2期目の首相退任後、「今後自民党が保守色を失っていくのではないか」との懸念を漏らしたことがある。実際、安倍氏亡き後の岸田、石破両政権下ではその保守色の後退が進んだ。とくに岸田内閣では保守派の反対を押し切って「LGBT理解増進法」が成立、これを機に反自民の保守系新党が誕生、その後の石破政権下の衆院選(2024年)で自民党は過半数割れの惨敗を喫した。代わって保守色を強くうたった参政党が躍進したのは周知の通りだ。

 一方で安倍政治を担った議員らも、安倍暗殺事件の真相究明を求める声を次第に潜めた。「司法の独立」という名目はあるが、あまりに不可解な事件に政治の面から真相にアプローチすることは当然の責務であろう。

 しかし、「宗教と政治」という新たな〝火種〟にフタをした岸田政権さらに続く石破政権といったハト派リベラル政権が続く中、旧安倍派グループもいわゆる「裏金」問題で半ば解体同然に追いやられてしまった。その意味では「銃弾」の意図はともかくその結果は、前述の保守言論人の懸念と重なったといえよう。

 とはいえ、高市早苗政権の登場で「安倍政治」は息を吹き返したかに見える。いわば安倍氏を師と仰ぐ高市首相の一連の政策はそれを裏付ける。何よりも首相就任後、年明けに電撃的に行った解散総選挙で自民党は単独でも衆院の3分の2以上の議席を獲得し圧勝した。これが安倍氏の敷いた保守改革路線の仕上げを図る大きな舞台となったことは間違いない。

 安倍政治の功績は多岐にわたるが、その大きな柱は国家国民の安全を図るビジョンである。「自由で開かれたインド太平洋」戦略がそれだ。東西冷戦時のような「過度な対米依存」から脱却し、自国防衛力の強化と、平時からアジア諸国とNATO(北大西洋条約機構)諸国とのいわゆる同志国との連携強化がここから生まれてくるのである。

 安倍政権時に策定された「救難、輸送、警戒、監視、掃海」の5類型に限定された防衛装備移転三原則を、高市政権時になってようやく改定し、すべての武器・装備の輸出を原則可能とした。こうした安全保障のレールが実を結んだのも同戦略の一環といえる。

改革は緒についた

 「国家の意思」を鮮明に打ち出したことの意義を強調したのも安倍政治の特長だろう。安倍氏は暗殺される直前の22年4月、都内で開かれた台湾海峡を巡るシンポジウム(日本戦略研究フォーラム主催)での講演で「防衛費のGDP比2%達成」を強く提案した。

 「まず数字ありきではなくて積み上げでなければならない」という反論には、具体的数字を挙げて「国家意思を示すべきだ」と政治の役割を強調したものだ。確かに「積み上げ」論は一見正論だが、国家としての意思と姿勢を内外に鮮明に打ち出すことがより重要性を高めてきたのである。

 しかし、安倍氏の標榜(ひょうぼう)した国のありようと改革はまだ高市政権においても緒についたばかりだ。国家情報局創設に加え今審議中の日本国旗損壊罪法案に続いてスパイ防止法案、さらには本丸の憲法改正に向け、高いハードルが続く。「安倍政治の再来」として高市政権への攻撃は強まるばかりだ。

 確かに自民党そして日本維新の会を含め衆院で与党は圧倒的な勢力を確保した。だが失礼な言い方になるが、それは別の面で言えば党内においてこうした安倍政治に対する反対あるいは非協力のいわば「獅子身中の虫」も多く抱えることになった。中国の軍事外交的圧力が厳しさを増す中、この党内事情をいかに克服して与党全体が結束していくかが安倍氏の遺志に報いることになるだろう。

(黒木正博)

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