
半世紀以上も前に「切腹」(1962年)という映画があった。滝口康彦の小説『異聞浪人記』(1958年)を基に小林正樹が演出・監督した。昨年亡くなった仲代達矢が主演したこの時代劇は、武士道の在り方にとどまらず、現代にも興味深い視点を提供している。
多くの浪人が出た江戸時代初期、江戸を舞台に大名屋敷を訪れ切腹の場所として庭先を拝借したいとする食い詰め浪人が横行した。丁重に金品を渡して断るのを当てにしてのことだ。
これに業を煮やした有力譜代大名、井伊家の家老は他家とは違う果断の対応をしたところから話が始まる。仲代演じる浪人と三國連太郎演じる家老のやりとりが、武士道とは何かを問い掛け、その誇りとする武士の体面という虚飾を見事にさらけ出す。
武士道という堅固な秩序も時を経て形式と体面に堕するとどうなるか。その意味では、現代の組織秩序にも共通の問題が内在されているのではないか。
対ベネズエラ作戦、対イラン戦などトランプ米大統領の再登場は既存の国際秩序に鉄槌(てっつい)を与えている観がある。第2次世界大戦後の国際秩序のレール構築には大きな役割を果たした国連だが、今や無力化している。
武士道の一面の虚飾を告発する「仲代」浪人がトランプ氏とは言わないが、重なってくる。一方で戦後国際秩序の恩恵を受けて肥大してきた軍事大国・中国が、国連の主要拠出国・日本をその挑戦者のごとく批判する。天に唾するとはこのことだ。






