
野生動物保護に取り組む羽澄俊裕(はずみとしひろ)氏が6年前に『けものが街にやってくる』という本を出している。氏が警告していたのは、農林被害にとどまらず、野生動物の都市への侵入、人身事故、人獣共通感染症等のリスクが大きいこと。放置すれば対策コストが雪だるま式に増えていくだろうと。
予想通り、県庁所在地のど真ん中にクマが出没し、学校等が休校となる騒ぎ。東京都では奥多摩や八王子にクマ出没情報が寄せられ、奥多摩山系の御岳山(みたけさん)(青梅市)は日曜日であっても人が減っている。
クマ騒動の最中の先々週、氏の話を直接聞く機会があった。過疎の進行と共に狩猟者が高齢化し、数も激減。1970年代は50万人規模だったのが、現在は20万人程度。しかも実際に猟に出るのは約6割、半数は罠(わな)免許取得者という。銃や猟犬に追われる危険が減った野生動物は人を恐れなくなる。人馴(な)れが深まると住宅街や商店街に平気で侵入し、餌を探し始める。現在、東北各地で起こっているクマ問題である。
一番胸に刺さった話は、森林環境の食物連鎖が崩れると、鳥類や哺乳類が消え、里や街に野生動物が流れるということだ。人間の勢いが衰え、野生動物の侵入を食い止めてきた人たちが山間地域からいなくなると、イノシシ、シカ、クマの順で里に下り始めるという。
生物界では強い外来種が入ってくると在来種が消えていく。人の勢いが衰えると、当然そこに野生動物が入ってくる。これが厳然たる自然界の仕組みなのである。
氏いわく、「この先10年くらいはクマ問題に悩まされるだろう」。
抜本的対策は農林業を守ること。そのためにはジビエ(野生鳥獣肉)産業を育てることも必要だろう。増大する対策コストをどこから捻出するのか。山好きの筆者にとってもクマ問題から目が離せない。
(光)






