
米ソ冷戦ピークの1980年代末期、米国フロリダ州のジャクソンビル海軍航空基地を取材したことがある。P3C対潜哨戒機の訓練に同乗した。仮想敵が当時のソ連潜水艦であるのは言うまでもないが、その訓練には度肝を抜かれた。ほぼ垂直に機体を海面に急降下、そして反転上昇を繰り返すのだ。その激しさにたまらず床に身を横たえることもあった。
後の米軍関係者の話では、日本側の取材に対し、日頃米軍がいかに日本はじめ同盟国の防衛に貢献しているかを見せつけるべく、通常の訓練以上の「強度」で臨んだのだという。張り切ってやったのはいいが、米側乗組員の中にも気分を悪くして嘔吐(おうと)する者が続出するなど、思わぬ〝副産物〟が出た。それだけ彼らの思いが伝わってきた。
そして時を経て旧ソ連に代わり中国が表舞台に登場して久しい。「米中新冷戦」や〝米中G2〟体制も指摘される今日、その米国の矜持(きょうじ)はどうなるのか。
米国が対イラン戦闘で軍事的な比重を中東に移しつつあり、アジア太平洋におけるプレゼンスが希薄になるとの懸念が生じている。南シナ海で覇権拡大の動きを監視する米軍の偵察機の出動回数がこの間、3割ほど減り、武器弾薬等の備蓄も逼迫(ひっぱく)しているのが現実だ。
4月末の米戦略国際問題研究所(CSIS)報告書などによると、日本が最大400発の取得を計画している巡航ミサイル「トマホーク」は、米軍の備蓄の3~5割が消費されたとされ、備蓄が以前の水準に戻るには約4年もかかる。日本への納入が遅れる可能性もあるという。
これはイラン戦況が落ち着けば解消するという問題ではない。先のシンガポールで開かれたアジア安全保障会議でヘグセス米国防長官は、アジアの同盟国に国防費を国内総生産(GDP)比3・5%に引き上げるよう要求。特に日本に対しては「同盟強化のために共に役割を果たす必要がある」と一段の負担を負うよう求めた。NATO諸国に対する国防費の引き上げと軌を一にするものだ。
米国一国だけに軍事を含めたグローバルな対応を委ねず、同盟国自らが応分の負担をもっと負うべきだとの強いメッセージだが、一方で、地域の問題は自分たちでしっかりやれよとの突き放しとも取られかねない。会場で最前席に陣取った小泉進次郎防衛相がヘグセス氏に「米国の揺るぎない(アジア)関与は確信しているが、一部の国々では過小評価されている。地域に安心感を与えるメッセージをもらえるか」と異例の質問を放った。
これは小泉、ヘグセス両氏の個人的な親密関係に加え、日米同盟関係の強い絆を内外に改めて想起させる小泉流センスとも言える。が、その背景には高市政権としての武器輸出三原則の撤廃をはじめ、豪州、フィリピンなど同志国との安保連携の強化、さらには国家情報局の発足など一連の「自立」に向けた布石がある。
一方的に保護され、依存する関係から脱却し、真の独立国家を構築する上でさらなる覚悟と備えが必要だろう。
(黒木正博)






