
冬眠明けのクマの出没が相次いで目撃され、人的被害も出ている。動物文学の名作を多数残し「日本のシートン」とも言われる椋(むく)鳩十(はとじゅう)の代表作の一つに『月の輪グマ』があるが、改めてこの作品を読んでみた。
イワナ釣りに山奥に出掛けた2人連れの男が子グマを見つけ、近くに母グマがいないのをよいことに生け捕りにしようとする。大きな滝の手前まで追い詰めたところで、恐ろしいうなり声が聞こえ、対岸の崖のてっぺんに母グマが現れる。
それでも2人は、母グマがすぐここに来ることはできないと高をくくり、さらに子グマを追い詰めたその時、母グマは崖の上から滝つぼに飛び込む。岸にたどり着いた母グマは倒れ込んだまま動かない。
死んだかと思われたが、しばらくして動きだし、子グマを連れて山の奥へ消えて行った。これを見た2人は、その母グマの姿にいたく心を動かされ、その後を心配しながら川を後にする――。
危険を承知で子グマを生け捕りにしようとするなど、今では考えられない。作品が発表された昭和17年ごろはそんな気分があったのかもしれない。いずれにせよ、椋が描いたのは親子の愛情や動物と人間の心の交わりだ。
母グマは冬眠中に洞穴の中で子供を産み、春は子供を連れて行動する。クマが滝つぼに飛び込む話は、どこまで本当なのか分からないが、泳ぎがうまいのは確かなようだ。母グマの愛情の深さを表現したこの作品だが、図らずもその危険性を教えてもいる。





