中東情勢の悪化による燃料価格の高騰が、フィリピンの市民生活を直撃している。そんな混乱のさなか、政府が突如として打ち出したのが、「より安全な都市イニシアチブ」と呼ばれる大規模な治安対策だ。
開始からわずか10日間ほどで、7万人以上が検挙・補導されるという異例の事態となった。理由は「公共の場での上半身裸」や「未成年の夜間外出」「路上での酒宴」など多岐にわたる。しかし、その多くは、家の中に居場所がなく、暑さをしのぐために路上へ出ざるを得ない貧しい庶民たちだ。これに対し、市民からは「標的は貧困層」との批判が噴出した。
象徴的だったのは、自宅前で猛暑の中、上半身裸でセメントを運んでいた男性が罰金を科されたケースだ。「働いていただけなのに」といった同情と怒りの声は瞬く間に広がり、最終的には内務自治相が謝罪に追い込まれた。警察も「今後は警告にとどめる」と方針転換を余儀なくされた。
一方で、このタイミングで突如強行された治安対策の動きについては、燃料高騰による物価上昇で、いつ爆発してもおかしくない大衆の不満を未然に抑え込もうとする動きではないかという見方も出ている。
路上から喧騒(けんそう)が消えた一方で、その背後には、経済不安という火種を抱えた政府の強い危機感も見え隠れする。(F)





