トップコラム【ワシントン発 ビル・ガーツの眼】AIで「認知戦」強化へ 米国防総省が新たな取り組み

【ワシントン発 ビル・ガーツの眼】AIで「認知戦」強化へ 米国防総省が新たな取り組み

 米国防総省の戦略能力局は、大規模な破壊を伴う戦闘に至らず、物理的な攻撃を伴わない「認知戦」を遂行するための新たな取り組みを開始する。同局で自律技術と人工知能(AI)を担当する最高技術責任者(CTO)のサム・グレイ氏は、その目的について「敵対勢力や個人の認知、思考能力を混乱させ、認識や感覚、行動に影響を与えることだ」と説明した。

 グレイ氏は、ホノルルで全米防衛産業協会が主催した最近の会議でこの取り組みに言及した。

 同氏によれば、この計画により、3~5年以内に優先度の高い課題に対処するための新たな認知戦能力が開発される見通しだ。

 従来の影響工作は、第2次世界大戦でドイツ軍を欺くために使用された空気で膨らませる偽戦車のように、「物理的に観測可能」なものだった。

 しかし現在では、高度なAI技術を生かしたデジタル技術によって、広い範囲に効果的に影響を及ぼすことが可能となり、目に見えるかどうかの重要性は低下している。

 グレイ氏は、中国やイランといった敵対国が、社会全体の思考を変えるために認知戦を活用していると指摘し、「米国は技術面で後れを取っている。追い付く必要がある」と述べた。

 このプログラムの一環として、「ベーシック・インフォメーション・アウェアネス・オペレーションズ(基本情報認識作戦、BIAO)」と呼ばれる新プロジェクトも立ち上げられた。商用技術を活用し、認知領域での作戦を展開することを目的としている。

 BIAOは、敵の情報や素材を検知、識別し、テキスト、映像、音声などを生成して情報空間で活動するシステムに焦点を当てている。

 グレイ氏は「(これらのツールを)展開し、その効果を測定する能力が必要だ。自分の発信するナラティブ(物語)はどれだけ効果があったのか、想定通りの反響があったのか。そうでなかった場合は、モデルを再訓練する必要がある」と述べた。

 中国は「三戦」と呼ばれる大規模な認知戦を展開している。これは世論戦、心理戦、法律戦から成るものであり、中国問題の専門家であるアンドリュー・B・ジェンセン氏が最近の発表で指摘した通りだ。

 中国の軍事文書では、認知戦は「人間の意志、信念、思考、心理に直接働き掛け、相手の認識を変化させることで意思決定と行動に影響を与える作戦」と定義されている。

 中国軍の公式オンラインメディア「中国軍網」は、この新たな認知戦は「勝利の鍵」であり、その戦場は今後、覇権争いの主要舞台となると強調している。

 また、政府系シンクタンク、中国社会科学院は「認知領域の作戦によって、物理、情報、認知の各次元にわたって複合的効果を発揮し、脳の作用を通じて意思や思考、行動、感情に影響を与え、『戦わずして敵を屈服させる』という目的を達成する」と説明している。

 中国共産党は、この認知戦を生かして、国内では国民を統制し、国外では敵対勢力を分断し、その士気を低下させ、共産主義体制を喧伝(けんでん)している。

 ジェンセン氏はこの点について、中国共産党指導者、毛沢東の言葉を引用し、「赤軍は単に戦うために戦うのではなく、革命的政治権力を確立するために戦う」と述べた。

 同氏はまた、中国の認知戦の虚偽や不正を暴露し、信頼できる中国国内の反対意見を支援し、中国が条約義務を順守していない実態を明らかにするなど、より強力な対抗措置が必要だと強調した。

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