トップコラム防空壕の中の一体感【上昇気流】

防空壕の中の一体感【上昇気流】

 「あたしねぇ、時々そう思うんだけど、戦争中敵の飛行機が来ると、みんなで急いで防空壕に駆け込んだわね。……親子4人真っ暗な中で死ねばこのまま一緒だと思ったことあったじゃないの。戦争は嫌だったけど、時々あの時のことがふと懐かしくなることがあるの。……あんなに親子4人が一つになれたことなかったもの」。

 小津安二郎監督の映画「彼岸花」(1958年)に、田中絹代演じる老妻が佐分利信演じる夫に、箱根・芦ノ湖の畔(あぜ)のベンチに腰掛けながら、こう話し掛けるシーンがある。里見弴(とん)の短編小説が原作だが、小説にはこんな場面や台詞(せりふ)はない。脚本は小津と野田高梧。小津は東京大空襲の時は外地にいたから、野田が自身の体験を基に創作したものだろう。

 きょうはその東京大空襲から81年。一夜の無差別空襲で約10万人が死亡し、約27万戸が焼失した。

 老妻が「戦争は嫌だったけど」としながらも懐かしく思い出せるのは、子供たちも元気に育って結婚適齢期を迎え、穏やかな老後を過ごしているからである。戦争で肉親を失った人たちは、そうはいかない。

 とはいえ、厳しい環境に置かれ、互いに助け合わなければならない時、人々の絆が強まることは事実だろう。東日本大震災で被災者が互いをいたわり助け合う姿は、故ドナルド・キーンさんら外国人をも感動させた。

 被災地の深刻さはないが、当時は東京や関東近辺でも一種の一体感が感じられた。大震災からあすで15年になる。

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