
邦画実写映画の興行収入記録を塗り替え、200億円を突破するなど一つの社会現象にまでなった李相日監督の映画『国宝』は、吉田修一氏の同名小説を原作とした「芸道映画」である。
昨年暮れ、東京の神保町シアターが、『にっぽん「芸道物」の世界』という特集をし、その中で溝口健二監督の『残菊物語』を上映した。村松梢風の同名の実録小説を元にした昭和14(1939)年の映画で、溝口監督が長回しによるワンシーン・ワンカットの技法を完成させた記念碑的作品でもある。
五代目尾上菊五郎の御曹司として周りからちやほやされる二代目尾上菊之助は、その大成を願って直言した女中のお徳を愛するようになる。しかし身分違いを理由にお徳は暇を出され、それに反発した菊之助は勘当され、東京を離れる。関西を拠点に貧しい役者稼業を続ける菊之助をお徳は支え続け、最後にお徳と一緒になることを許されるが、その時、お徳は重い病の床にあった…。
こんなストーリーの中には、『国宝』に重なるところがかなりある。芸道映画の元祖と言っていいだろう。
その後、昭和38(1963)年大庭秀雄監督の作以後、映画化はされていない。その理由について、中川右介氏は『歌舞伎 家と血と藝』(講談社現代新書)で、「この『悲劇』を成立させる『身分』というものが実感のないものになったからだろうか」と述べている。確かにそうだろう。
(晋)





