トップコラム「倒すべきは岸信介」【上昇気流】

「倒すべきは岸信介」【上昇気流】

 日本画壇の巨匠、前田青邨の作品に中国で描いたスケッチの数々がある。「漢俑・馬」「広州の蚤民」など。1960年に中国から招待されて、日本画家代表団の代表として訪中した時のもの。

 「まずなんといっても驚いたのは、発掘品の質と量のすばらしさだ」と随筆「中国でみつけたもの」(『作画三昧』新潮社)で書いている。蚤民とは貧しく不潔な生活をしている人々のこと。

 中国側は見せたくなかったらしいが、青邨は題材として惹(ひ)かれた。街の風景や新しい博物館の建物にも興味を示した。同時期、日本作家代表団の一人として訪中した開高健は『過去と未来の国々』(岩波新書)で政治面にも言及した。

 団長の野間宏は、1000人が集った歓迎集会で、日本での安保反対運動について報告。嵐のような拍手が起こり、次いで中国側も所信を表明した。「ファシスト岸信介はアメリカ帝国主義と結託した売国奴である」。

 倒すべきは「岸」であり、「アメリカ帝国主義」だと。日本人の多くは国内問題だと思っていたが、震源地は中国だった。それを証拠立てた訪中記なのだ。45年の国連創設以来、代表権を持ったのは中華民国(台湾)。

 71年に中華人民共和国(中国)に移り、72年には日中国交正常化がなされた。この間、中国と台湾を巡る日本の立場が逆転した。作家や画家たちが日本国民に与えた影響は小さくなかったようだ。中国が自由のない恐ろしい国というイメージを払拭したのだから。

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