トップコラム国語の標準を作った書物【上昇気流】

国語の標準を作った書物【上昇気流】

 国境の長いトンネルを抜けると、急に人々の話す声が賑(にぎ)やかになってきた――もう30年も前になるが、アルプスの下を貫くモンブラントンネルを抜け、車でフランスからイタリアに入った時の気流子の感想だ。

 イタリア人はおしゃべりが好きだ。フィレンツェからローマまで列車で移動した時も、隣の座席の2人の中年イタリア人男性は、初対面にもかかわらず2時間ほどの間、ぶっ続けで話し合っていた。内容は分かるはずもないが、実に楽しそうだった。

 イタリアはもともと、幾つもの都市国家を中心に栄え、南と北では経済的文化的に大きく異なる。そんな中で国家としての統一の基礎となったのは、イタリア語だった。

 ベースとなったのは、ダンテが『神曲』などを書いたトスカーナ語という。この作品の歴史的な価値は、文学的な内容以上に、知識層向けのラテン語ではなく一般大衆が使っていた言葉で書かれたことだ。

 英語では1611年に完成した英国王ジェームズ1世の『欽定訳聖書』の荘重な文体が、近代英語の形成に深く影響したとされる。時代とともに変化するにしても、そういう標準となるような書物があることは、言語にとって重要なことだろう。

 振り返って日本語の場合はどうだろう。いろいろあるようで案外難しそうだ。夏目漱石らの名作小説が近代の日本語文章に与えた影響は大きいとはいえ、この一冊と決めるのは難しい。まして翻訳 調の日本国憲法など論外である。

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