静かな環境で資料を読み込みたい時に使う公立図書館は、駅から歩いて約5分と便利だ。しかも2年前に新設されたのできれいだ。それでもウイークデーの日中は学習席がいつも空いているのに数日前はほぼ満席で、高校生らしい若者たちが参考書とにらめっこしていた。
「受験シーズンだな」と納得しながら、もし故郷の村にこんな図書館があったら、自分も彼らのように勉強しただろうか、と真剣さが足りなかった受験生時代を懐かしく思い出した。
その1週間前、取材で陶磁器の産地として知られる愛知県常滑(とこなめ)市を訪れた。名鉄・常滑駅の改札を出ると、赤い小さな鳥居と学生服を着た猫の置物が机の上に〝鎮座〟していた。1980年代初めに流行(はや)った「なめ猫」か、確かあれは名古屋発祥だったな、と一瞬思ったが、よく見ると違っていた。
猫の前にあった説明書きを読むと、2013年から毎年受験シーズンに設置している「合格祈願招き猫神社」だという。なるほど、背丈50㌢あまりの猫は、右手に自分の背丈ほどの鉛筆を抱え、そこには「合格祈願」と書いてあった。〝常に滑る〟市でおかしくない?
謎はすぐ解けた。鳥居の神額「常滑神社」の「滑」の文字を逆さまにし、「常に滑らない」と験(げん)を担いでいたのだ。
さらに、猫の肉球を「ざらざら」にし、それを手で触ると滑らない御利益が増すのだという。「ヤスリのお守り」「砂のお守り」など、全国にはさまざまな合格祈願のお守りがあるが、ざらざらの肉球とは考えたものだ。
この神社では桜が満開になる3月末まで設置しているそうだ。張り詰めた空気の中、図書館の机に向かいながら、合格祈願招き猫を目に浮かべて、受験生たちに「サクラ、サク」ことを祈った。
(森)






