
新年早々にまたも国際的な衝撃が走った。米軍によるベネズエラのマドゥロ大統領の拘束はその電撃的な作戦の見事さが際立った。とくに中国にとっては習近平国家主席肝いりの特使団がマドゥロ氏との会談でベネズエラ支援を演出した直後だっただけにそのショックは計り知れない。
このトランプ政権による米軍の「断固たる決意作戦」は用意周到だった。カリブ海沿岸で空母機動部隊が展開、ベネズエラ本土への特殊部隊の投入で大統領自身を逮捕拘束して米本土へ輸送するという離れ業だ。
これはもちろん緻密な作戦準備と訓練、そしてベネズエラの軍、政府部内に内通者がありマドゥロ氏の動向が完全に把握されていたからこそできたことだ。その見えない“立役者”がキューバ人であり、自国の経済崩壊でその行き先としてベネズエラの軍顧問や傭兵として浸透していた。マドゥロ政権への忠誠は無きに等しい。いわば表向き派手な軍事行動と並行した内通による細心の作戦は、トランプ流の別の顔を持つものといえよう。
さっそく作戦に対する解説、分析がSNS等をはじめ世界で沸騰した。日本では例によって「国際法違反」といった批判が既成メディアを中心に反応したが、その主なポイントは①いかに麻薬撲滅でありそのトップが独裁者といった名目でも、武力で主権を侵すのは許されない②これを認めればロシアのウクライナ侵略や中国の狙う台湾武力侵攻を批判できない―といったものだ。
だが、この問題とロシア、中国のケースについては全く性質の違うものだ。今回の作戦は領土侵略や体制転覆を目的としたものではない。米国内における深刻な社会悪である麻薬流入犯罪を阻止するという目的を過小評価してはなるまい。その後のベネズエラ国家運営を当面米国が関与するとしながらも、ロドリゲス副大統領が暫定大統領に就任している。日本での論点はとくに左翼メディアではそこを基本的にスルーして武力攻撃といった面のみを大きく取り上げている。
さらに言えば、これまで国際法で事実上放置され軽視された事案に対してどれだけ国連ないし国際機関が有効に対応してきたか。北朝鮮による日本人拉致問題一つをとってみてもその無力さと限界は明らかだろう。それを承知で忍耐強く国際法の下で交渉するのが国際政治のルールではないかという筋論に、いわば今回の作戦は大きな問題提起、いや鉄槌(てっつい)を下した形だ。
国際法の解釈はさまざまにあるが、今回のベネズエラ作戦は国際法の無視ではなく、それを超えた国際社会の秩序のあり方を深刻に問うたものといえる。国際法自体は伝家の宝刀でも何でもない。それによっていかに世界の安定と平和を構築できるか、まさに究極のツールであり、それをいかに実行に移せるかだろう。
とはいえ、国際法の問題とは別に今後の懸念すべき材料はある。カリブ海は米国の「裏庭」であり、地政学的にも米国は中露の介入や勢力圏拡大に対して多大な優先順位で対処した。その意味では中国はこれを奇貨としてカリブ海を含めハワイ以東の東太平洋から退く代わりに、西太平洋は中国勢力圏とする、いわゆるかつての「太平洋の米中二分割」論が復活しかねないことだ。ここがトランプ流の読めないところだ。しっかり高市―トランプによる日米同盟の絆を深めていかねばならない。
(黒木正博)






