
憲政史上初の女性首相、高市早苗政権は秋の臨時国会で、少数与党として出帆したが、58日の会期内に政府の経済対策を裏付ける2025年度補正予算(一般会計歳出18・3兆円)を成立させた。ガソリン暫定税率の廃止など当面の物価高対策、「強い経済」に向けた成長投資の頭出し財政出動、わが国の主体的な防衛力強化(GDP比2%の2年前倒し)を基調とする。
高市政権は、わが国固有の潜在的技術力を人工知能(AI)・半導体、造船、量子など、成長戦略17分野に重点投資し、企業の予見可能性を高める。就職や未来志向、高市トレードと呼ばれる株高(日経平均5万円超え)から、若者層を軸に高い関心を引き寄せ、発足来の高支持率を維持する大きな強みを持つ。
だが、台湾有事関連の首相の国会答弁をきっかけに、不要にも中国が付け込んできた。また積極財政による財政悪化懸念を「責任ある」との言葉で説明するも、国際市場では信認不足で、行き過ぎた円安が常態化している。日銀が政策金利を0・75%に引き上げて対策したが、市場との対話力を欠き、円安をさらに進行(157円台)させている。情報のリスク管理の課題が浮き彫りになった。
中国政府による首相発言(「事態対処法」根拠)への反発トリガーは、一時掲載後に取り下げた朝日新聞の「(存立危機事態)認定なら武力行使も」とした見出しだ。センセーショナルな表現が中国側の反応を助長し、駐大阪総領事の薛剣(せつけん)氏が、X(旧ツイッター)の過激な投稿で引用した。
中国側はそれ以降、薛剣発言を棚に上げつつ、首相発言の撤回要求に徹し、わが国への渡航や留学の自粛、中国国内での日本人アーティストの公演中止などを圧力として断行した。これを取り上げる日本のメディア報道と相俟(ま)って、日本国内の世論分断を試み、日中関係悪化との情報戦の土台をつくり上げたのだ。
わが国を取り巻く東アジアの安全保障環境が、日常から情報戦のさなかにあるとの根本認識に立ち、隙(すき)あらば首相の言動を理由に、問題を起爆させたい勢力の存在というリスク認識が必須だ。確かに首相の発言は従来の政府見解を踏襲する。中国の反日的な積極的立ち居振る舞いにかかわらず、国内、国際世論ともに冷静である。政界には与野党の垣根を越えた、台湾有事への危機意識を高める政治風土が必要だ。
首相が自ら多用するSNSは、正確な政策意図の直接的流布により保守層、無党派層の支持基盤を固めるのに寄与する。その上で、外交、安保、防衛に関わる国会答弁、会見を、国益全体を見据え戦略的に行うのがよい。あらゆる発信を米中はじめ、世界が注目しており、諸国の理解と支持を取り付けるためのリスク管理となる。
積極財政が財政悪化と結び付けられ、市場が極度の円安に傾く問題にも、情報のリスク管理強化が役立つ。片山さつき財務相には「租税特別措置・補助金見直し」(日本版DOGE)を、2026年度予算編成から早期反映など、無駄削減の実績を示し、政府財政への市場信認強化を求めたい。
情報力強化は首相が長年掲げてきた国力強化の一分野。若者層の高い期待に応えるためにも、自身の言動、財政政策の発信、日銀の対外コミュニケーション力などをリスク課題に加え、情報力強化の一環として対応し、強い日本を牽引(けんいん)してほしい。
(駿馬)






