高市早苗政権は発足して1カ月の節目に、臨時国会の所信表明演説で掲げた「強い経済」実現に向け、総合経済対策を打ち出した。「責任ある積極財政」の「積極」を、財政支出21・3兆円(昨年比53%増)で示す一方、当初予算を含んだ補正後の国債発行額は昨年度42・1兆円を下回る見込みと説明した。

物価高対策では、新たに連立を組んだ日本維新の会の要請を受け、電気・ガス代の負担減に0・5兆円(世帯当たり3カ月で約7000円)、前政権までの連立パートナー公明党には子育て支援0・4兆円(1人当たり2万円上)で応じた。
食料品高騰対策として給付金を主張する立憲民主党に配慮し、自治体が自由に使える重点支援地方交付金に2兆円を計上。政権はすでに、国民民主党が繰り返し要望してきたガソリンの暫定税率を与野党合意で年内に廃止することを決めている。これらは、補正予算成立に向け、少数与党として各党の賛成を取り付ける戦略的な組み立てといえる。
高市首相の台湾有事に関する国会答弁を契機に日中関係に不穏な空気が漂う中でも、内閣支持率は依然高く(読売72%など)、安定している。首相から18閣僚への指示書や、自民党政調会長の定例会見の映像・文書公開など、国民への政策透明化の取り組みも、支持率維持に寄与する。
「強い経済」実現への柱は、日本の安全を守る危機管理投資と、日本の潜在技術を開花させる成長投資だ。両者に跨(またが)る人工知能(AI)・半導体、造船など17の戦略分野を掲げ、政権が官民の投資を能動的に導く経済政策は、先進国の主要傾向にも合致する。「日本と日本人の底力を信じる」首相のビジョンに、国民が応えることで、未来への希望が開かれそうだ。
ただ、政権発足後の急速な円安の動きに注視が必要だ。外国為替レートは対ドルが一時158円台に接近、対ユーロやポンドでは史上最安値を更新するなど、日本円は主要通貨の中で独歩安の道を進んでいる。2025年度のODA予算(2兆4000億円超)は、各国通貨換算で自動的に目減りする。関税交渉での対米投資額5500億ドルは、当初80兆円から86兆円に膨らんだ。通貨安が続く中で首相が目指す「世界の真ん中で咲き誇る外交」など、果たし得まい。
為替レートは市場で決まるのが原則だ。しかし、片山さつき財務相や日銀の植田和男総裁はいずれも、どのように「責任ある」積極財政なのか、国際市場向けの説明が曖昧過ぎる。その結果、日本政府の財政悪化イメージが独り歩きし、円の独歩安を招いている。これでは、本質的に強い経済づくりへ逆行となる。
航空、化学・素材、食品・外食など輸入依存の産業は、円安による原材料高の直撃を受ける。価格転嫁が進めば、最終的に物価高として国民生活を圧迫する。物価高対策を講じても、円安が続けば“イタチごっこ”だ。一方、輸出比率の高い企業は円安が追い風。日経平均株価が史上最高値を更新する中、恩恵を受ける企業も少なくない。
円安の“光と影”が極端に分かれる経済下で、政府が言う「デフレ脱却の転換点」が、国民にどれほど実感されているか。ギャップは大きい。
政権は、日銀の金融政策と連携し、まずは具体的かつ多角的に、経済均衡と不均衡を数値化し、メリットとデメリットを可視化する指標設定が急務だろう。
(駿馬)





