
シュートボールがゴールネットを揺らす。途端に湧き上がる歓声と振られる応援旗。どこでも変わらぬプロサッカーの試合風景だが、ベトナムでは続きがある。スタジアムに行けなかった若者たちは、試合の進展をスマホやラジオから取りバイクに乗って街を流す。そしてベトナム代表チームが得点すると、歓声とクラクションが鳴り響き街全体が歓声に包まれる。
さらに勝利となれば、バイクの大群が国旗を振りながら走り回り、道路は一時、歩行者天国ならぬバイク天国と化す。そして街全体がスタジアムに化けるのだ。
ベトナム代表チームが決勝まで駒を進めた東南アジア諸国連合(ASEAN)クラブチャンピオンシップ24―25では、ベトナム全土が異常な熱気に包まれた。決勝の相手は、ASEANトップクラスの強豪国タイ。ホーム&アウェー方式で行われた決勝戦の2試合で、ベトナムが勝利を収めた。繁華街の道路がオートバイで占拠され、お祭り会場になる。
ベトナム人のサッカー熱が半端でないのは、単なる娯楽ではないからだ。男女や年齢、出身地域を超えてサッカーは人々の絆を強める。サイゴンはベトナム戦争で北ベトナム軍によって陥落し、ホーチミン市へと名前を変えたように、人々は政治的変化を余儀なくされた。そうした分断の歴史をサッカーは、押し流してくれ同じベトナム人として心を一つにさせてくれる。こうした分断の歴史が、国全体の一体化儀式を求めているのかもしれない。
なおベトナムのサッカーの力量は、なかなか侮れない。6年前のアジアカップ準々決勝では、ベトナムは日本相手に粘り負けこそすれ、1-0と僅差だった。(T)





