
今年のノーベル生理学・医学賞に決まった大阪大の坂口志文(しもん)特任教授の父親・正司氏は、生活のために研究職を断念し、その後地元・滋賀県で高校教諭、校長を務めた教育者だった。坂口特任教授は常日ごろ、研究職の魅力を熱心に語る父親に感化され、父親が勧める研究職の道に進んだ。
一方、2008年ノーベル物理学賞受賞者の一人、故益川敏英氏は「銭湯通いの道すがら父親から自然や宇宙の話を聞かされ、理科好きの少年になった」「私自身は学校の成績はあまりよくなかった」と話していた。
坂口氏は父親の熱意によって将来の進路を決め、益川氏は父親の背中を見て育ったと言える。ともに個の確立を果たすのに家族から受けた影響が大きかったことが分かる。
ここ10年来の国際学力調査などの結果を見ると、日本の子供たちは学力は高いのに自律学習が苦手だという傾向がはっきりと出ている。残念ながら、児童・生徒の学習意欲が低く、主体的に関心を持って学ぶ意欲が乏しいのだ。
学校の授業内容を工夫し、いかに興味を持たせるかは教師の力量だが、子供たちが自発的に学ぶようになるための良策は、教師との間に家族に似た信頼関係をつくることだ。
坂口氏の受賞理由は、過剰な免疫を抑制する「制御性T細胞」の発見。だが最初は、この細胞の存在を提唱しても受け入れられなかった。正しい研究の道を歩んでいるとの強い確信と信念は、やはり青少年時代に培われたものだろう。





