トップコラム台風の目に突入する【上昇気流】

台風の目に突入する【上昇気流】

台風の目

 大空で繰り広げられる雲と光のドラマは人の心を魅了してやまないものがある。秋の雲といえば鰯(いわし)雲。イワシが群れているようで気象用語では巻積(けんせき)雲という。高層にできる雲で、天気が下り坂に向かうサインだ。

 9月、10月は台風が日本を襲う季節でもある。かつて南アルプスの山中で台風に遭遇したことがある。近づいてきた時の雲の様相はすさまじく、終末を主題にしたカンディンスキーの「コンポジションⅥ」のごとし。

 あらゆる色彩をぶちまけて渦巻いているような雲だったが、台風がやって来たのは少し後のこと。ところで、最強クラスの台風の目にジェット機で突っ込んで観察した気象学者がいる。坪木和久さんだ。

 著書『天気のからくり』(新潮社)によると、このスーパー台風は最大地上風速が毎秒67㍍以上。観測したのは2017年10月21日で、雲の高さは海抜15~16㌔、坪木さんが飛んだのは高度13㌔だった。

 調べたのは、台風の目の中の上空から海面まで全層の温度分布と中心気圧。台風の最大の秘密は壁雲とそれが囲んでいる目にあり、目は台風のエンジンに例えられる。そこで何が起きているかだ。

 そのデータは非常に重要で、世界中の研究機関が注目したという。高高度になると風は弱くなるので、突入は難しくなかった。最も困難だったのは、その台風が急発達するか否かを予測することで、最後は「人事を尽くして天命を待つ」。これが気象学研究の最前線なのだ。予測は当たった。

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