トップコラム蚊と出遭わなかった今年の夏

蚊と出遭わなかった今年の夏

蚊取り線香

 「暑さ寒さも彼岸まで」と言われるが、東京でも秋分の日(9月23日)を前後して最低気温が20度を下回る“涼しい夜”が続き、やっと熱帯夜漬けから抜け出した。

 だが、そんな秋の訪れと共に、筆者が出入りする事務所で時折、蚊の飛ぶ音を聞くようになり、「そういえば今年、この音を聞かなかったな」と気付かされた。自宅でもほとんど蚊の侵入はなく、毎年お世話になっていた電子蚊取り器も使わなかった。

 幼い頃、「金鳥(キンチョー)の夏、日本の夏」という渦巻き型蚊取り線香メーカーのキャッチコピーが流行(はや)ったが、当時の“日本の夏”はまさに蚊との戦いが大きな問題だった。

 こちらの武器は蚊取り線香と蚊帳(かや)だ。蚊取り線香は室内はもちろん、縁側で夕涼みする時も団扇(うちわ)と共に必須アイテムだった。蚊取り線香を付けて蚊の接近を防ぎ、煙の防御網を突破した蚊は団扇で追い払うのだ。

 就寝時は蚊帳を張る。今は実物を知る人も少ないだろう。寝具の上と周囲を覆う目の粗い麻布(木綿布)の帳(とばり)で、上部(長方形)の四隅と両長辺の真ん中に、先に丸い金具が付いた紐(ひも)があり、部屋の柱などに付けた紐を金具に結んで吊(つ)り下げた。中が透けて見え、蚊帳の端を素早く上げて中に入るが、時たま蚊が侵入すると大騒ぎになった。

 エアコンのない時代、蒸し暑い夏の夜に窓を開けっ放しにして夜気を感じられるのは快適で、子供心にも両親や兄弟と同じ「蚊帳の中」で寝るのは楽しかった。だが、網戸のあるアルミサッシや扇風機、そしてエアコンが普及するにつれて蚊帳は無くなった。

 蚊は気温25~30度で最も活発だが、35度を過ぎると人の血を吸わないほど活動が鈍るのだという。今年の猛暑も蚊と出遭わない夏に一役買ったのだろうが、外出時間も限られ、一日中エアコンを付けた室内で暮らしていては、蚊と出遭わないのも当然だ。それは快適ではあるが…。

(武)

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