
自衛隊は精強になったのか。その答えを暗示する上で、海上自衛隊出身で中国軍事問題ジャーナリストの小原凡司さんが語った現役時代の思い出が興味深い。さまざまな場面で日本と他国との戦闘に対する認識の違いを痛感したという。
小原さんは回転翼機(ヘリコプター)の操縦士で2003年から06年まで駐中国大使館の防衛駐在官を務めた。駐在時、中国側の設定でヘリ部隊の見学に行ったが、その際、中国側の操縦士は整備兵と見紛(まご)うほどに地味な紺色のフライトスーツだった。
当時、海自のヘリ操縦士のそれは全てオレンジ色だった。米軍からは「お前たちは死にたいのか」と笑われたという。つまり、そんな目立つスーツだと海上にいたら敵から狙いをつけられ殺されるというわけだ。
一方、自衛隊の感覚は救助する際にすぐに発見されやすいようにという“配慮”だった。しかし、それは実際の戦闘場面では命取りだ。このように日米の認識にはギャップがあった。現在の海自ヘリのフライトスーツは迷彩色だ。
小原さんは、従来自衛隊は訓練という意識で“戦闘”という意識が希薄だったとも述懐する。これはほんの一例にすぎないが、「防衛白書」や政府・防衛省の公式発表ではうかがえない、国際常識に沿った自衛隊の現場における脱皮と言えるかもしれない。
現下のわが国を取り巻く安保状況はより厳しくなっている。有事に至らせない「精強な軍隊」とは何かを改めて考えさせられる。





