トップコラム地獄と極楽のヒガンバナ【上昇気流】

地獄と極楽のヒガンバナ【上昇気流】

 近所の公園を散策すると、まだサルスベリの花が残っていた。ムクゲの花はもう終わりに近い。新しく咲き誇っているのはヒガンバナだ。茎の先に赤い花。よく見ると繊細で表情豊かな形をしている。

 ユリの花弁を細くしたような形の花が六つ、七つ。長く伸びた細い雄しべと雌しべが燃え立つ火炎のようだ。万葉集では「いちし」の名で登場し、これは「著しく、はっきりと」の意味。

 柿本人麻呂は「路の辺のいちしの花のいちしろく人皆知りぬ我が恋ひ妻は」と歌ったが、いちしに深い意味はなかった。だが時代を経ると、球根に毒があったり、種ができなかったりすることが分かってきて、別のイメージを呼び覚ました。

 地方にはドクバナ、ハカバナ、ユウレイバナなどの異名がある一方、マンジュシャゲの名称は梵語(ぼんご)に由来して「天上に咲く赤い花」という意味。地獄と極楽の両世界を取り込んでいるのがすごいと思う。

 この季題で俳句の名作を残した一人が能村登四郎で、昭和58年夏、7歳若かった妻を天上界に見送った後、こう詠んだ。「朴ちりし後妻が咲く天上華」。さらに「一度だけの妻の世終わる露の中」と詠んだ。

 此岸(しがん)と彼岸の両世界を取り込んだような作品だ。この句を味読していると、此岸と彼岸、無明の世界と悟りの世界に思いが広がっていく。秋の彼岸を迎えてから、昼の時間より夜の時間が長くなった。月日という旅人にも供養が必要だ。暑さも和らぎ、過ごしやすい日々となった。

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