トップコラム総裁選が忘れた保守主義 上滑りする「解党出直し」【潮汐閑談】

総裁選が忘れた保守主義 上滑りする「解党出直し」【潮汐閑談】

 さしもの石破茂首相も“矢尽き刀折れた”感のある退陣表明をした後を受け、幕を切った自民党総裁選もすでに水面下では終盤戦さながらの様相を呈している。

 これまで事実上首相の座に就く重大イベントだったが、少数与党という舞台構造の激変で傍観者だった野党もそれなりの端役として登場する役得となった。それだけに世論の関心が集中するのは当然だが、メディアを含め国民が論じ正すべきは、彼らがわが国の「羅針盤」をどう設定し、そこに向けたビジョンを提示するかである。

 先の参院選大敗の総括を受けて「解党的出直しに取り組む」としたが、それは前提に「解党」してでも達成すべき党のビジョンがあってこそ重要な意味を持つ。これだけでは単なる実体のない決意表明にすぎなくなる。それほど自民党はその実、すでに「解党」状態にあるのだ。

 「総括」ではその敗北について政治とカネをめぐる問題、物価高に対応できなかったなどを挙げているが、率直に言ってそれらは根本的敗因ではなく、自民党のアイデンティティーの喪失、言い換えれば「保守」主義に対する緊張感の欠如が露呈したものだ。参政党や国民民主党への多くの自民支持さらには保守無党派層が流出したが、それは付け足しのように敗因の最後で扱われている。自民党の「保守主義」への疑念、絶望を真正面から取り上げると、党内の分裂を招きかねないという“配慮”でもあろう。しかし、これこそこの課題克服へ「解党的出直し」を実行せねばならないはずだ。

 実際、総裁候補の中には、そうした保守主義への回帰とまではいかないが、それをある程度取り戻す必要性に言及している。しかし、それは野党との協力を得ずしては政権運営に支障を生じるという観点から、保守系野党との新たな連立、さらには政策協力という次元における党内事情から出たものといえる。

 当面の政局、政権運営においてはやむを得ない選択ではあるが、これに埋没していくようでは今後の選挙においても自民党の存在感と役割はますますジリ貧となるのは自明だろう。従来、自民党は懐の深い政党で田舎の“総合デパート”のようなものといった融通無碍(むげ)をむしろ誇った。が、今や多様化の時代に入りピンポイントで顧客のニーズに応える政党が存在感を増すようになった。

 「安倍路線継承」を宣言したはずの岸田前政権の下では、LGBT法成立に象徴されるように「自民党らしさ」が失われ、多くの不満や反発、失望が保守的な野党へと流れた。総裁候補はまずその点を明確にすべきだろう。「保守主義を取り戻す」。その具体化を新総裁は体を張ってどう推進するか。今や国際政治はそれぞれの国家のトップ個人の采配と見識が露骨に現れるようになった。そうした中で政権与党の主柱たる自民党のリーダーシップがこれほど問われる時はない。

(黒木正博)

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