トップコラムフィヒテ「日本国民に告ぐ」【上昇気流】

フィヒテ「日本国民に告ぐ」【上昇気流】

ドイツの哲学者フィヒテは19世紀初頭、敗戦下に生きた人である。ナポレオン率いるフランス軍の軍靴が響くベルリンで毎週、講演し続けた。「ドイツ国民に告ぐ」がそれである。

戦後80年の夏、書棚から取り出した。昭和7年版の岩波文庫『獨逸國民に告ぐ』(大津康訳)で、元警察官僚の弘津恭輔氏から「国の在り様を考えるなら、読むべき一冊」と薦められ手に入れた愛蔵書である。

フィヒテによれば、ドイツが亡国の危機にあるのはひとえに国民の利己心に依(よ)る。「利己心は極めて少数の例外を除き、被治者の全体を襲うた後、さらに蔓延して、また治者階級をも襲い、ついに彼らの生活の唯一の衝動となるに及んで、その発達の最高度に達した」。

そのような精神の下では「自己の国境が犯されざる限りは無事泰平なりとの憐れむべき利己的自己欺妄に堕ちる」。それで国を守れず、外国軍の支配に屈しているとフィヒテは語る。

独立を失った国民は時代の潮流に影響を及ぼす能力、時代の潮流の内容を自由に左右する能力も失い、外国にその運命を制せられてしまう。だから「外国製の眼鏡」でなく、自分自身の目で率直に見る「意志」と、見たものを率直に語る「勇気」が国民に必要である、とも語る。

人ごととは思えない指摘である。「利己心が生活の唯一の衝動」となってはいまいか。いつまでも「無事泰平」と思ってはいまいか。フィヒテの言は「日本国民に告ぐ」とも聞こえてくる。

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