「おおよそ四半世紀ぶりに芥川賞・直木賞が両賞共に授賞なし」という話が話題になっている。「文芸春秋」9月号では、選考の当事者2人がこの件について対談している。芥川賞側は島田雅彦氏で、9人の選考委員の一人。島田氏は芥川賞受賞者ではないが、選考委員を務めている。直木賞側は桐野夏生(なつお)氏。
島田氏は「リアリティ」という言葉を使って、授賞作が出なかった事情を率直に語っている。特に芥川賞の場合、リアリティーの有無が重んじられてきた。日本語で言えば「真実味」ということになる。「実際にありうる話が重要で、作り物はよろしくない」という考え方だ。
リアリティーとなれば、田山花袋(かたい)の昔にまでさかのぼってしまう。明治末期、今から120年も前のことだ。そのリアリティーが、ここ20~30年の間に変容してきたと島田氏は述べている。
30年ぐらい前まで、リアリティーはほとんどの人にとって共通のことを示す単語だった。ところが昨今は、異なる世代だけでなく、同世代でも個々の違いが大きくなった。結果、リアリティーについての理解や解釈もだいぶ違ってきた。多様化の流れは日に日に拡散している。
リアリティーの問題だけではないだろうが、特に芥川賞の場合、選考が難しくなっているようではある。
無論、こうした論議を吹き飛ばすような力量を持った新人が登場すれば、局面は全く違ってくる。あらゆる芸術の歴史は、未知なる「人」によって変わるものだ。





