今年はフランス文学者で作家の辻邦生の生誕100年。山梨県立文学館では4月から6月、「時空を旅する作家」と題して特設展が開催された。山梨県笛吹市は父祖の地で、ここを舞台にした小説『銀杏散りやまず』がある。
長野県軽井沢町の軽井沢高原文庫では「生誕100年 辻邦生展―軽井沢と物語の美―」が開催中(10月13日まで)。それぞれゆかりの地だが、信州の旧制松本高校で敗戦前後を経験したことが文学への道を決定付けた。
この時以来の親友が北杜夫。山梨県立文学館で紹介された辻の北宛てのはがきがある。絵があり「真中のトリデにいるのがいわずと知れた宗吉・キッド」。囲んでいるのはインディアンだという。
1956年4月16日のはがきで、斎藤宗吉は北の本名。山梨県立精神病院に勤務していて、多忙を極めていたという。それをキッドがインディアンに取り囲まれている状況としてコミカルに描いた。
2人の対談集『若き日と文学と』では、松本高校時代の精神の形成過程が詳しく語られている。辻は2歳年上だが、落第したために同じ学生寮で過ごす。2人が熱中したのがトーマス・マンの諸作品。
この青春の時期に2人は特異な経験をする。辻は言う。「いわば、現実よりも<言葉>のほうが先にあって、<人間としての現実>は、じつは<言葉>がつくっていくんだという確信がある人間が、<小説家>なのだと思う」。文章の持つ恐るべき力を知ったのだ。






